上流行程で成功する人、つまずく人

本屋で流して立ち読みしたら面白そうだったので購入しました。

前半はタイトルにある上流行程における、特に教科書的に体系立ててまとめられてはいない、要望の収集から要求の獲得についてを重点をおいて解説されています。文中でも指摘されているが、PMPなどのプロジェクトマネジメントの手法は、要求はすでにあるもの、発注側であるお客様で洗いだし、確定していることを前提としています。契約の下に発注者と受注者が平等だという欧米社会には合っています 1 が、概して契約を挟んで受注者が発注者に従属する日本社会には、この著者が指摘するように従来の手法は必要であっても十分じゃありません。考え方としてはPMPより広い領域をカバーするP2Mに似ています。

後半はプロジェクトにおける実践の話、というかバッドノウハウというか、単なる作業者と知識労働者は違う、プロのSE、知識労働者たれ、という感じの論調です。本書のターゲットは上流行程を目指す人を想定している筈なのだが、単なる作業者はこういう輩だから気をつけろ!という感じで書かれているのが面白いですね。見方によっては単なる作業者は切り捨てているようにも取れますが、私は単なる作業者や自分は単なる作業者じゃないと思っている人ほど、本書を読むべきだと思います。後半に限らず、全般にわたり、自分はこれって出来ているだろうかとグサッとくる箇所があります。

私が気になったフレーズを以下に引用しました。

もし、プロジェクトにおいて

「ユーザーが決めてくれない」

「ユーザーがはっきりしない」

という発言がみられるとしたら、要望収集はほとんど失敗しているといえます。

また、要望を収集する役割の人が、問題を捉えていないこともあります。(中略)

「この開発では、何の問題を解決しようとしているのか」

ということを理解していなければ、誤った仕様をつくり、設計、実装するので、最終的に誤ったものをつくってしまい、結果として、プロジェクトは失敗することになります。

よく聞く話なので、自分が絡んでいない案件だとしても耳が痛い内容です。

「サンプルどおりにつくったのに、どうしていけないんだ」

「顧客が仕様変更をたくさん出すから、スケジュールが守れない」

「営業が無理な条件で仕事をとってくるから、納期なんて守れない」

「自分の考えなんて持ったって無駄。どうせ妥協しなくちゃいけないんだから」

「言われたとおりにつくったのに、何がいけないんだ」

「自分は悪くない」という姿勢かつ、自分では何も考えていない。”作業者”は「やりました」ということに重点をおく。「できました」ではない。

これもよく聞く話です。最初のとある意味では相反するところではあるのかも知れませんが、とはいえ、そういうことを言う輩も本来はプロなのだから、そんなことを言って逃げんなよ、と思います。

成果物をつくるのであれば、その成果物がその金額に見合うものかを考える。判断に迷った場合は、自分がその金額でその成果物を買うかどうかということを基準にする。

サービスであれば、自分がその仕事に対して顧客に提供した時間を考え、素の時間に素の金額に見合う価値を顧客に提供できたかを考えます。自分が提供した価値に対して同じだけの金額を自分が払うかどうかを基準にしてみてください。「今日の自分の話を聞くために、自分自身に○万円払うだろうか?」を自問自答してみましょう。

最近、自分がお客様だったらどうだろう?という視点を持つようになってきたので、これはよく理解できます。料金が決まっているとか、SE単価がいくらだから、とかいう輩には是非考えてもらいたい内容ですね。

久々の良書に出会ったと思います。細かい点では所々ツッコミどころもあるにはありますが、基本的に言いたいことは一貫しているので細かい話は瑣末な事です。ページ数もあとがき含めて150ページ程度で一時間あれば読める内容で、千円でお釣りがくるので一読してみることをお薦めします。

上流工程で成功する人、つまずく人 (技評SE新書)

1

P2Mの研修で聞いた話だけなので、本当にそういう文化なのかはよう分からん。